森林貴彦監督の凄さが分かる名言・語録集!慶應義塾高校を日本一に導いた名将の伝説エピソードから教育論まで
高校球児といえば、坊主頭で練習中は大きな声をかけ合い、朝から晩まで決められた猛特訓を黙々とこなし、時に先輩からの理不尽なしごきにも耐え、監督の前では帽子を脱いで直立不動、そんなイメージです。しかし2023年の夏、そのイメージを覆す高校が甲子園を制し、一躍監督も全国に知られるようになりました。森林貴彦監督です。
森林が率いる慶應義塾高校は、あの福沢諭吉が創立した名門慶應義塾の高校であり、野球部もその起源は1888年にまで遡る歴史があります。それほどの伝統を持つチームが、高校野球の世界に爽やかな新風を巻き起こしました。
長髪が許され、練習から部員の自主性に任されていて、疑問があれば監督に意見することも構わない。もちろんそのような指導をする高校は慶應以前にもありました。しかし、結果的にいわゆる野球強豪校にはなかなか勝てず、否定的に見られることもしばしばでした。慶應の全国制覇はそれを覆す快挙だと言えます。
今回は高校野球の常識を覆した森林貴彦監督の凄さが分かる名言や語録を紐解き、慶應義塾高校を日本一に導いた名将の伝説エピソードから教育論にまで迫ります。
森林貴彦について
まずは森林貴彦の経歴を追ってみます。
1973年6月7日生まれ。東京都渋谷区出身。慶應義塾普通部、慶應義塾高校、そして慶應義塾大学と慶應一筋の学歴で、野球は高校まで遊撃手として活躍しましたが、大学では野球部には入らず、慶應義塾高校で学生コーチを勤めました。
大学卒業後はNTTに入社。3年で退社し、筑波大学に入学。2年目に大学院体育研究科コーチ学専攻へ進学。在学中につくば秀英高校のコーチも務めます。卒業後、慶應義塾幼稚舎の体育講師となり、更に通信で小学校教員免許を取得し、専任教員となります。
2012年に慶應義塾高校の野球部助監督、2015年に監督に就任。2018年の春の選抜大会、夏の選手権大会で甲子園に出場し、2023年の選手権大会で全国制覇を果たしました。
令和の新しい指導者像として、高校野球界のみならず、多方面から注目されています。
私が選ぶ、森林貴彦の凄さがわかる名言・語録集
【名言語録その1】
「例えば髪形について、ただ自由にした方がいいということではないんです。選手主体で意見を出しながら、自分たちの置かれている環境ではこれがいいんだと決めて、前に進めていくことが大事だと思っています」
慶應の優勝で、マスコミは長髪ということを大きくクローズアップしていますが、慶應はずっと以前から髪形は自由でした。更に朝日新聞の調査では、2023年に日本高等学校野球連盟に加盟している高校の約60%が髪形は自由で、丸刈りは約26%にすぎません。なので高校球児イコール坊主頭というのはすでにただの先入観に過ぎません。けれどそれは高校野球について回るアイコンとして長年刷り込まれてきたものです。
WBCでの活躍もあり、日本の国技とさえ言われることがある野球ですが、各種調査で競技人口の減少傾向が報告されています。実際、かつてのようにキャッチボールをしたり、ゴムボールで三角ベースをしたりする子どもは見かけません。少子化はもちろんですが、競技環境の変化やプロスポーツの多様化など原因はいくつもあるのでしょう。
その原因のひとつに高校野球で当たり前だった坊主や長時間の練習、厳しい上下関係、監督絶対主義など、伝統という名の束縛があるという見方もあります。伝統がすべて悪いものだとは言えません。2023年の選手権大会でも広陵高校や神村学園高校のように、選手自らが坊主を希望している学校もあります。問題は野球をやりたい者たちが環境を選択できる多様性です。
「たとえば、うちは髪は自由だし、寮はなくて基本的に通いです。また監督がすべてを決めるとか支配するのではなく、自分で考える余地、決める余地がある。それは今までの高校野球の常識からは少し違う部分だと思うんで、うちが活躍することで、高校野球における多様性とか、チームの個性とか、もっともっと認められるようになればいいと思います」
森林がそう語る通り、慶應の甲子園優勝は高校野球の多様化に向って、大きな一石を投じたと思います。
【名言語録その2】
「より高いレベルで野球を楽しもうという究極のエンジョイ」
筑波大学大学院でコーチング論を学んだ森林は、大学で学びながら、つくば秀英高校でコーチもしていました。そこで副部長として共に指導にあたった沢辺卓巳は森林について「最初からこの人は優秀な指導者になるだろうなではなく、優秀な指導者だなと感じました」と話しています。
沢辺によれば森林は穏やかで選手ファースト。ひとりとひりの力を伸ばすためによくコミュニケーションをとっていたそうです。またノックも上手くて、ただ強い打球を打つのではなく、高低がある打球などいろいろ工夫して打っていました。そして練習の合間や終了後には、練習内容だけでなく、選手各々の様子も書き込んでいたそうです。
更に現在は、数多くのプロ野球選手も訪れている動作解析の施設に足を運び、選手の技術向上に役立てています。
慶應の平日の練習時間は約3時間。甲子園で優勝するようなチームとしては短い方でしょう。しかし「エンジョイ・ベースボール」を掲げ、選手の自主性も尊重する森林を、選手たちは「森林さん」と呼び、応援でも「モリバヤシが足りない」コールが起きています。
「監督の名前を呼び捨てにできる学校が49チーム中何校あるのか。そういうスタンドも含めたトータルで野球を楽しんでいきたい」
森林はそう語りますが、問題は呼び捨てにすることそのものではありません。きっと選手が本当に敬意を抱き「監督」と呼ぶチームもある筈です。大事なことはいずれにしても選手ファーストであるということです。
だからこそ「エンジョイ・ベースボール」の「エンジョイ」も、森林曰く「より高いレベルで野球を楽しもうという究極のエンジョイ」なのです。
【名言語録その3】
「極論すれば、学生たちがすべて考え、いるのかいないのか分からない監督が私の理想です。私はそうした環境を作るのが仕事」
甲子園の優勝と共に、森林は優しく穏やかな令和の指導者というイメージが広がっています。しかし森林の本質は反骨の人であり、教育者です。
「私自身、今の高校野球は嫌いなところがたくさんあります。それゆえ現状を変えていきたいからこそ、指導者として高校野球に携わっています。高校野球には大人が作り出した強い固定観念があります。全力疾走、汗、涙。それらを良識ある大人であるはずの関係者やメディア、ファンが求め、高校生が自由な意志で身動きをとれない状況は、おかしいと言わざるを得ません」
この批判の他にも「甲子園を聖地化しすぎるのはどうか」と疑問を呈したり、「今までの高校野球は監督、先輩の言うことを素直に聞く人材が高く評価されてきました。高度成長期だったらそれでよかったのかもしれない。しかしこれからは違います。考えない人材は真っ先にAIに仕事を取って代わられてしまいますよ。高校野球界がそうした人材ばかりを輩出していていいんでしょうか」と厳しい指摘をしています。
その背景には「全員がプロ野球選手になるわけではないので、勝ち負けやプレーだけでなく、野球を通してどれだけ人間として育てあげられるか」という思想があります。この考えは教育者としても、ひとりの大人としても正論です。高校野球はプロ野球というサクセスストーリーの通過点として注目されがちですが、それは甲子園に出た選手でもごく一部の者の話であり、高校生のほとんど、更に高校の部活動のほとんどには無縁のストーリーです。
でもそれは諦めの目線ではなく、未来を見据えた教育者としての目です。「体や心の成長で言えば、18歳がピークであるはずがありません。大学や社会人など、その先でもっとうまくなっていくのだから、高校生の段階はあくまでも通過点だと、指導者側が思っていなければいけない」と森林は選手たちの未来を語ります。
「発信しにくいことも、勇気を持ってやっていきたい」
そう決意する森林ばかりでなく、彼を高く評価し、決勝で破れて夏連覇を逃した仙台育英高校の須江航監督など、新しいタイプの監督たちが高校野球だけでなく、教育の形も変えていくかもしれません。
名言からの学び
・自由も伝統も自ら求めて得るべきものである
・選手ファーストだからこそ、選手もファンもその競技を楽しめる
・大人はひとりの教育者として、若者を見守る姿勢を持たねばならない
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